仕事の事情
手柄、昇進、退職、会議の沈黙。職場で人が自分を守るためにつく小さな嘘と、その後始末を描いた物語です。
読み切り 11 本
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「参画も主導も同じ会議だろ」と経歴書を直した夜
一語くらい誰にも迷惑をかけない。そう思って直した。その一語は入社した日から、少しずつ請求されていく。
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月曜の電車を一本見送るのは、辞めたいうちに入りますか?
月曜の朝は、電車を一本見送る。次のに乗れば間に合う。だから、まだ辞めたことにはならない。わたしはそう思っている。
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紹介した友人の提案書と、三本目の赤ペン
友達を同じ会社に入れた。毎晩の赤は、親切のつもりだった。評価シートの一行を読んだ日から、手帳の数字が重くなる。
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木曜の議事録で、係長は言葉をひとつだけ直した
尾上は議事録係。直すのは一回に三語まで。その決まりを守っているうちは、自分は公平だと思っていた。
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誰のせいにもしないのに、了解スタンプは押していた
誰のせいにもしない人でいるつもりだった。担当じゃないし、連絡には全部返事をしている。月曜から水曜まで、島の端の席で。
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同期の昇進祝いに名入れの万年筆は、早すぎますか
先に祝ったほうが、器が大きい。森下はそう思っている。久保田は祝いの日をのばして、目を合わせない。
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退職届は三通あるのに、院長はいつも「助かるよ」と言う
三通目の退職届は、もう直すところがない。院長の机までは十歩。それが歩けないまま、月が替わる。
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怒鳴ったことは一度もない。ただ毎晩、三つ書かせている
怒鳴らない。手も出さない。夜に三つ書かせるだけ。課長はそれを育成だと呼んでいる。
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送別会のチェックリストで、十九行目だけ埋まらない
送別会の段取りは、誰にも文句を言われない。チェックリストの十九行目だけ、ずっと右が空いている。
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私は有給の理由欄で、元気な祖父を亡くした
理由は言いたくない。空欄だと課長が席に来る。だから祖父を三回忌にした。年忌表も作った。お返しも配った。ちゃんとしている方だと思っていた。
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提案実績を検索したら、47件すべて作成者だった
会議で出した案は、課長の名前で残っていく。黙って渡したのは自分でもある。公募の窓口で、その数が画面に出た。

