見栄の物語の一覧
読み切り 7 本 見栄
タワマン低層階の母は、毎朝九階で降りる
毎朝、九階で降りて階段で四階へ戻る。五年間ずっとそうしてきた。誰にも見られていないと思っていた。
見栄
フォロワーは増えたのに、缶クッキーは九つ残った
あと860人。1,980円。ランチ二回分より安い。結菜は画面を閉じて、また開いた。数字はそのあと、どこまで増えただろう。
見栄
整形の金額で迷うのに、備考欄は読んだことがない
目元だけ、誰にも気づかれない程度に。三社まわって、見積書は三枚になった。決まらないのは、金額のせいだと思っている。
見栄
「へえ、すごい」と返しながら、同僚ランチの自慢を数える
美穂は何も言わない。盛らないし、下げない。ただ「へえ、すごい」と言って、膝の上で線を一本足す。数える側に、欄は要らないと思っていた。
見栄
「その時計の人なら、まだ下がりますよね」と言われた営業
高級時計をローンで買った営業の主任。袖を三センチ詰めて、鏡の前で二十回練習した。客は「いい時計ね」と言った。
見栄
同窓会で年収を盛ったら、会費はいくらになりますか?
460と言うつもりだった。本当だ。口が先に動いて、八百になった。誰にも迷惑はかけていない。そのはずだった。
見栄
毎朝「朝ごはん」を上げるのに、本人は駅で菓子パン
写真は日曜にまとめて撮る。平日の朝は、駅のホームで菓子パンを7分でかじる。後輩はその皿を、毎朝見ている。